技術紹介

カイコ発現系

概要

カイコ‐バキュロウイルス発現系とは

ProCubeは、一般的に利用されている大腸菌や培養細胞発現系と異なり、カイコ‐バキュロウイルスを用いた発現系を採用しています。このため、他の発現系では発現がうまくできないタンパク質に対して、特に有用なご提案が可能です。

一般的にバキュロウイルス発現系は、大腸菌発現系と比較して、分泌タンパク質の発現や、翻訳後修飾の必要なタンパク質の発現に適しています。また、タンパク質の可溶性も大腸菌に比べて高くなります。

カイコ‐バキュロウイルス発現系においては、1985年に故前田進博士がカイコ幼虫にバキュロウイルス(B. mori nucleopolyhedrovirus :BmNPV)を感染させインターフェロンの生産に成功したことを皮切りに、現在までに数多くのタンパク質がカイコを用いて生産されています1

カイコを発現宿主に用いた場合、カイコの各個体は独立したシングルユースの培養タンクと見ることができます。カイコ体内の環境は、ガス交換、栄養供給や老廃物除去が自動的に行われており、常に最適な細胞のコンディションが保たれています。 

このカイコ体内に感染したバキュロウイルスは、頭部と腹腔を除くあらゆる細胞に感染・増殖することで、虫体全体の組織でタンパク質を産生します。カイコの感染に必要とするウイルス量はごく少量ですむ一方で、発現量はカイコ培養細胞やSf培養細胞を用いた場合と比較して、おおよそ10倍から100倍高くなります2

なお、バキュロウイルスはヒトには感染しないウイルスであり、バイオハザードレベルが低いことから、安全なウイルスと言えます。同様に、カイコは完全に家畜化され、自然回帰能力を失った扱いやすい昆虫であり、自然環境に与えるリスクも低く抑えることができます。

タンパク質発現フロー

Step1 ベクター構築
目的のタンパク質をコードする遺伝子をトランスファーベクター(相同組換えに必要なウイルスゲノム断片が含まれている)に組み込む。

Step2 組換えウイルス作製
カイコ培養細胞(BmN細胞)中で、組換えトランスファーベクターとバキュロウイルスDNAを導入し、ウイルスの相同組換えを行う。培養6日後に、組換えウイルスを回収する。

Step3 リコンビナントタンパク質の発現
感染は、カイコの蛹、もしくは幼虫にウイルスを注射して行う。感染6日間後、蛹の場合は虫体そのものを破砕し、幼虫の場合は体液を回収する。得られた破砕液または体液は、アフィニティ、イオン交換、ゲルろ過など各種精製を行うことで目的タンパク質を精製する。

1 Maeda et al., (1985). Production of human alpha-interferon in silkworm using baculovirus vector. Nature. 315(6020):592-4

2 Hiyoshi et al., (2007). Construction of a cysteine protease deficient Bombyx mori multiple nucleopolyhedrovirus bacmid and its application to improve expression of a fusion protein. J Virol Methods. 144(1-2):91-7

カイコ‐バキュロウイルス発現系の特長

ProCubeでは、大腸菌や培養細胞系と異なり、昆虫のカイコそのものを発現プラットフォームとして採用しています。
カイコを用いることで、他の発現系と比べて下記のようなさまざまな優位性が得られます。
このため、膜局在や複合体を形成する難易度の高いタンパク質もご提供できます。

カイコ個体を用いたタンパク質発現

■ 高い発現成功率
カイコ生体内には多様な組織に応じた多種の細胞が存在するため、単一の細胞株に由来する一般的な培養細胞を利用した発現系に比べて、タンパク質の発現成功率が高まります。
また、ProCubeでは、独自に開発したシステインプロテアーゼ欠損ウイルス(CPdバキュロウイルス)株が目的タンパク質の分解を防ぐため、野生株のウイルスと比較して、高品質かつ高収量でタンパク質を得られます。
なお、目的タンパク質の翻訳後修飾は、糖鎖修飾を除いて動物細胞と同等です。

多種類同時発現

■ 多種類のタンパク質を同時並行で生産
カイコは、それぞれの個体が1つの小型バイオリアクターであると言えます。そのため、スペースや設備による影響は少なく、カイコに異なるウイルスを感染させることで多種類のタンパク質を同時に生産することができます。
例えば結晶構造解析やHTSに用いるタンパク質調整において、最適なコンストラクションを選択する場合など、ハイスループットでの発現条件検討に理想的な発現系といえます。

柔軟な生産スケール調整

■ 研究の状況に合わせた最適な生産スケールをご提案
ProCubeでは、感染させるカイコの数を増減するだけで、生産量を調整することができます。
はじめに1頭あたりの目的タンパク質の収量を見積もれば、次回からお客様のニーズに合わせた最適なスケールでのタンパク質生産が可能です。他の発現系で必要となる、大量生産時の培養条件検討などは必要ありません。

短期間でのタンパク質生産

■ 研究をスピードアップ
カイコ-バキュロウイルス発現系では、感染後6日間でタンパク質が得られます。
また、カイコ‐バキュロウイルス発現系では一般的な培養細胞発現系で必要となる培養槽殺菌のダウンタイムや、スケール変更時の培養条件変更がないため、既存のバキュロウイルス発現系にはない、短期間でのタンパク質のご提供が可能です。
各種発現系の比較